リチャードソンの中世趣味、そして日本趣味

 リチャードソンの中世趣味が、東洋趣味や日本趣味、言うなれば当時アメリカのエキゾチシズムと同列に扱われるケースがあった。「ストーンハースト」のペイン邸はその最たる例だ。施主は、アメリカ独立宣言署名者の一人、ロバート・トリート・ペインの孫。姓名がまったく同じなのでたいへん紛らわしいが、孫のペインによって、ボストン郊外ウォルサムにつくられた別荘が、「ストーンハースト」のはじまりである。「ストーンハースト」とは、ペイン自身がこの地につけた名称で、“石の森”という意味である。郊外の緑豊かな丘上に、富豪のペインはわざわざ石の楽園をつくらせたのであった。
 最初、ペインの別荘はフランス風マンサード屋根をつけた端正でクラシックな様式の住宅だったが、これをリチャードソンに依頼し、自然の積極的な取り込み、ごつい野面石の強調に方向転換したのである。ファサードの妻面上部は、ニューイングランド地方の建築を特徴づけるシングル(こけら板)葺きとなっているが、やはり眼を引くのが南側のテラス、および、妻面下部を覆う野面石である。トリニティ教会と比べても、こちらのほうが断然素朴で田舎っぽい風情を持っている(...)。
 ただ、日本人にとってみれば、「ストーンハースト」のペイン邸は内部空間にこそ見るべき価値がある。一階のホール天井を見ると、短冊状に切り分けられた内側の全面に金箔が施されている。これを金箔張りの格天井の再現と言うと、多少大げさに聞こえるかもしれないが、あきらかに日本趣味をアレンジしたことはわかる。また、ホールの壁面に目をやれば、日本の家紋が装飾として写し取られ、やはり金色に輝いている。内部を案内してくれた研究員の方によれば、こうした日本趣味は世界中を旅行したペイン夫人が要望し実現したのではないかということであった。
[『経調レビュー』2012年3月号草稿の一部を抜粋]